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東京生活を楽しんでいましたが、ロンドン移住することになりました


by onoz223

ジゼル

日本語とはいえ、一応仮名で。
親友だったわけではないのに、最も影響を受けた人の一人。ブラジル出身で、背が高く、すらりとした美人で、太陽のように明るい女性だった。根っからの女王様気質で、どのディナーに行っても、必ず話題の中心になって、みんなの注目を受けていた。どんな女性も、嫉妬を感じずに彼女と接することは難しいと思う。
彼女との出会いは、私にとってとても嫌な思い出。当時、私は、29歳の物理学の教授に憧れていた。29歳で教授なのに、偉ぶらず、
「ドクター**じゃなくて、ファーストネームで呼んで」
と言う彼と、時々一緒にお茶を飲んだりしていた。すごいハンサムで、しかも趣味はジャズ演奏と絵を描くこと。そんな彼から映画に誘われ、私はかなり舞い上がっていた。しかし。約束の日、彼はすっかりその約束を忘れていた。約束の日の前日に、博士課程の学生だったジゼルを街で見かけ、その場で彼女に一目ぼれ、付き合うことになってしまったのだった。つまり、私にとってジゼルは、憧れの君が、私との約束の日の前日に一目ぼれしてしまった相手。私に同情するはずの男友達でさえ、彼女と少し話したあと、「彼女って、ほんとーにいかす」なんて言う始末で、私は本当にgreen with envy、嫉妬の塊。
教授の彼のことはすっかりあきらめ、私は、彼女のような魅力的な女性になりたいと思い、よく彼女の誘いにのってパーティなどに行くようになった。ジゼルは根っからの自信家で、例えば、招待者がいないと行くことのできないパーティでも、受付の男の子に、「あなたが私を招待してくれたらいいじゃない?」などと言っては、難なくエントランスをクリア。
私の友人たちは、「いくらがんばっても、君はジゼルにはなれないよ。それに、ならなくていいんだよ。」と言ってくれたけれど、その時の私は、とにかく彼女から少しでも魅力のかけらを得ようとしていた。(今思うとバカだなあ)
そんなジゼルも、明るく自信満々なだけではなかった。彼女は、「シルビア・プラスの日記を読んでいると、まるで、自分のことを書いているみたいで驚きなの」と言って私を驚かせた。
シルビア・プラスは、私たちのいた大学で研究していたこともある文学者で、有名な詩や小説を書いた後、ガスオーブンに頭をつっこんで自殺した人だ。そんな暗いイメージのある女性と、ジゼルのつながりが意外だった。
また、ジゼルは恋愛遍歴も当然のように派手。一度、結婚しようとしたけれど、ブラジルでの結婚式の数週間前に、クラブでイギリス男に一目ぼれし、結婚式をキャンセル、一人で新婚旅行で行くはずだったギリシア旅行をしてきた、という。
小悪魔で、自分勝手で、でもとても魅力的で、深みもある聡明な女性。
出会いは最悪だったけれど、出会えて面白かったなあと思える人だ。

去年、彼女が会議のため東京に来た際は、平日の人気のあまりないLa Fabriqueで一人で真ん中で踊ってたっけ。
by onoz223 | 2004-07-28 20:04 | over the River Cam